2012年1月27日金曜日

職場におけるHIV/エイズへの対応は、ジェンダー平等の観点が不可欠 - 神奈川県ホームページ

 ジェンダー不平等とHIV/エイズには、密接なつながりがある。
 HIV感染者の約半数は、女性である。
 2011年10月、ILOは、ジェンダー平等推進、女性のエンパワーメント、そしてHIV/エイズの拡大を止め逆転させることに関わる人々に役立つ指導書を刊行した。

 当誌『ワールド・オブ・ワーク』は、このILOの新刊行物(訳注:『HIV/エイズへの職場対応におけるジェンダー主流化推進のガイド』)の共著者であるアドリエンヌ・クルス氏に、HIV/エイズとジェンダーとの関連性について、インタビューした。

ジェンダー不平等とHIV感染リスクの高さは、どのように関連しているのでしょうか?

アドリエンヌ・クルス氏:

 「女らしさ」「男らしさ」という社会的な性別役割規範や、周囲の期待や振る舞いは、女性と男性のHIV関連情報やサービスへのアクセス、感染当事者の態度や性的行動、そして、感染当事者� �家族がHIVにどう対処するかへ、非常に強い影響を及ぼします。

 この問題については、これまでも多くの指摘がなされてきました。この疾病感染に対する潜在的に有効な手段を、職場は独自に提供しているのですが、ジェンダーに基づいた観点から行われることは、ほとんどありませんでした。今回のガイドは、このギャップを埋めることを意図しています。

HIVに感染しやすいのは、女性と男性のどちらでしょうか?

アドリエンヌ・クルス氏:

 2010年版『UNAIDS世界報告書』によると、2009年のHIV感染者は、世界で約3,330万人であり、その約半数の1,590万人が女性でした。しかし、女性感染者の割合は、数カ国において上昇しています。その原因は、これらの国々では、これまでの高リスク集団から、リス� �に対し脆弱であるために感染が増加している女性と少女を含む一般集団へと、感染パターンが転換しつつあることにあります。

 サハラ以南のアフリカでは、男性よりも女性のほうが、HIVに感染しています。この地域における女性と少女の感染リスクは極めて高く、HIVに感染している全女性の実に76%が、この地域の住民です。

 その他の地域においては、男性に感染者が多く、男性と性行為を行う男性と、ドラッグ常習者に集中が見られます。2009年刊行の『UNAIDS行動枠組み報告書』によると、世界でHIVに感染している男性のうち、男性と性行為を行う男性が約5~10%を占めており、彼らの大半は、女性とも性行為を行います。

女性と少女に関するジェンダーに基づくHIVリスクと脆弱性について教えてください。< /b>

アドリエンヌ・クルス氏:

 女性、とりわけ未成年の女性は、生物学的に男性よりも感染リスクが高いのです。性行為において予防手段を講じない場合、男性に比べ、女性には2倍の感染リスクがあります。

 結婚生活や互いの関係において、従属的な立場にいる女性は、受身の態度や、性行為に無知であることが求められることが多く、コンドームの使用や安全な性行為を要求する能力と、危険な性行為を拒否する能力が、大きく損なわれます。女性と少女への暴力行為や、暴力をほのめかすことが、HIV感染を上昇させることも指摘されています。

 男性に経済的に依存していると、女性は、安全な性行為を求める能力が損なわれると同時に、HIV検査を含む医療サービスや治療を求めることもできなくなりま� �。病気の家族の世話を主に担っているのは、女性と少女であることが多いので、彼女たちは、学校に通うことも、有償労働に就くこともできず、無償労働に従事し続けます。

 その他にも、所有権、相続権、親権者支援法における女性差別の存在が、多くの女性から財政的基盤を奪っており、性的産業で働くことを余儀なくされたり、少年少女の商業的性的搾取につながっています。

男性と少年に関するジェンダーに基づくHIVリスクと脆弱性について教えてください。

アドリエンヌ・クルス氏:

 男性と少年は、社会的に「男らしさ」を証明することを期待されています。それが、度を越した飲酒や薬物乱用といった高リスクの行動に、彼らを駆り立てることがあります。また、その場限りの性行為や、複数 を対象にした性行為も同じです。

 多くの国々で、リプロダクティブ・ヘルス(訳注:性と生殖に関する健康)に責任があるのは女性だけであるという想定のもと、HIV/エイズに関するサービスは、主に、家族計画、妊娠中の女性、小児科を通じて行われています。

 経済活動において男性が大半を占める特定部門、例えば運輸や鉱山といった部門では、特に家族と離れて男性だけが暮らしている場合に、労働状況が、HIV感染リスクを上げています。

 HIV関連の疾病により、両親のどちらか又は双方が死亡している少年は、一家の稼ぎ手とされるため、学校にも通えず、児童労働を強要されます。特にその形態が最悪の場合には、HIV感染リスクを上げてしまいます。

 男性同士の性行為は、多くの国々で、違法であった� �、不名誉とされたり、差別されたり、禁忌とされています。その結果、こうした男性たちは、感染防止や治療サービスから遠ざけられているために、最も高いHIV感染リスクがあります。

トランスジェンダーの人々にとってはどうでしょうか?

アドリエンヌ・クルス氏:

 トランスジェンダーの人々は、生まれたときの性別と異なるジェンダーの自己同一性を持っています。それにより、こうした人々は、男性が女性の外見を、女性が男性の外見を持っている場合があります。

 不名誉の烙印を押されることや、差別されることへの恐れから、こうした人々は、HIV検査を嫌がったり、HIV感染者であることを公表できなかったり、HIVのカウンセリングや治療も求めません。

 女性の外見を持つ男性は、最も� �別や不名誉な扱いを受けやすいため、HIV感染リスクが非常に高いのです。

 トランスジェンダーの人々の振る舞いは、社会的な性的規範から外れているため、こうした人々は、性別に基づく暴力に対しても大変脆弱であり、それもHIV感染の上昇につながっています。

HIV/エイズに対する職場における方策が、ジェンダーに基づくことが重要であるのは、なぜでしょうか?

アドリエンヌ・クルス氏:

 2009年6月に開催された国際労働会議では、ディーセントワークにとって最も重要であるところのジェンダー平等に関する宣言の中で、HIV/エイズは、労働の世界における男女平等達成のための主要課題の一つと捉えられました。「第200番~HIV及びエイズと労働の世界に関する提言」は、2010年の同会議で採択さ れました。また、「HIV/エイズと労働世界に関する2001年ILO行動規範」は、職場規定のガイダンスを提供しており、男女平等を推進することの重要性と、HIV/エイズをジェンダーの観点から見ることを強調しています。

 労働の世界における方策の全て、とりわけHIV/エイズに関しては、ジェンダー的側面に正面から取り組んでいないものや、男女平等と女性のエンパワーメント戦略を明確に認識していないものは、非常に多くの場合、現存する男女間または少年少女間の不平等な力関係を強化させます。実際、ジェンダーを無視した介入が、不平等を悪化させることもあるのです。

 ジェンダーを考慮したアプローチをすることで、女性と男性の性的行動に関連した社会的規範を含め、HIV感染リスクと脆弱性の根本原因に取り組むこ� ��が可能になります。当ガイドは、段階別の実用的チェックリストを掲載しており、ジェンダーを考慮したプロジェクトを計画する際に考慮すべき点について、詳しく述べています。


 以下は、『HIV/エイズへの職場対応におけるジェンダー主流化推進のガイド』(国際労働機関、ジェノバ、2011年発行)の引用である。

ジェンダーを考慮したHIV/エイズ対策に関する職場規定の構成要素

・  汎用的導入部

 次のような文言を含めると良い。「当社は、HIV/エイズの深刻さを認識しており、それが、女性労働者と男性労働者、そして職場全体に与える影響を認識している…当規定の目的は、男女労働者、その家族や被扶養家族に対し、HIV感染防止、治療、ケアと支援サービスへの継続的で平等なアクセスを促進することにある。当規定は、全ての職階における男女労働者の活発な参加によって、これまで展開されてきたものであり、今後も実施されるものである…」

・  規定の骨子及び汎用的原則

 これには、ジェンダー平等、雇用機会と取り扱いの均等、そして次のような文言を含めると良い。「当社は、被雇用者や求職者に対し、性別、性的志向、実際の又は予想されるHIV感染状況を含む全ての背景に関して、差別を加えない。また、差別を容認しない。」

・  規定の特定項目

 これには、次のような文言を含めると良い。「当社は、職場における全ての種類の暴力と嫌がらせを容認しない。これには、性的暴力と性的嫌がらせが含まれる…女性は、男性よりもHIV関連の危険性が高く脆弱であることが多いことから、性やリプロダクティブ・ヘルス、その権利と責任については、男女労働者の双方をエンパワリングすることに、重きを置いている。また、男性労働者が、HIV感染の責任において、女性と平等な責任を持つようエンパワリングする。」


記事出所:「World of Work」No.73,December 2011、ILO

記事原題:Gender equality is key to workplace responses to HIV and AIDS

翻訳:神奈川県立かながわ女性センター

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